大判例

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仙台高等裁判所秋田支部 昭和29年(う)71号 判決

特定の立木が被疑事件の証拠物として司法警察員により領置されていて警察がこれに対する支配力を有するにかかわらず、執行吏が該立木に対する被申請人の占有解除、執行吏保管、その処分禁止等を命ずる仮処分命令の執行として該立木が被申請人の占有に在るものと認めその占有を解き自己の占有に移し右仮処分命令の趣旨を公示する公示札を施した場合においては、該立木に対する警察の占有を奪い事実上これを執行吏の占有に移した結果を招来し、この限りにおいて右仮処分の執行は領置処分の内容と矛盾抵触し、執行法上不適法で無効たるを免れないことは所論指摘のとおりである。けだし、領置処分は犯罪の証拠保全の目的で証拠物の上に支配力を設定する処分であるから、この支配力を排除せしめる仮処分の執行は許されず、執行吏は有効には占有を取得するに由ないのであつて、執行吏が単に第三者が占有する物件を申請人の占有に在るものとして自己の占有に移した場合の如く、執行行為は不適法であるが、異議の方法により取消されない限り有効であるのとは異なるのである。

しかし、右の如き執行法上不適法で無効な仮処分の執行であつても、いやしくも執行吏が債務名義に基ずき他の占有を排除し事実上自己に占有を取得したものである以上、仮処分の執行行為として執行法上の成立はあるものといい得るのであつて、同法上不成立で絶対に無効の執行行為とは異なり、執行吏において職権で取消すか、又は異議訴訟等により取消されない限り、執行吏がその占有取得を公示するため施した標示は、なお刑法上保護せらるべき差押の標示ということができるものと解すべく、みだりにこれを無視することはできないものというべきで所論のように不適法且つ無効な仮処分の執行としての執行吏の占有取得は常に保護されないと解すべきではない。もつとも占有を奪われた警察が右標示を無視して占有を回復することは理論上は妨げられないが、(実際上は執行吏による職権取消を俟つて行われよう。)これは、証拠保全の公的利益が仮処分により保全せらるべき私的利益に優越するため、領置処分を侵した仮処分の執行に対し許容せられるにすぎないのであつて、このことから一般的にかかる差押の標示はこれを無視するも違法でないと推論することはできない。

本件につきこれをみるに、原判決の認定した事実は被告人は合名会社刈和野製作所の代表社員で、昭和二十八年七月十日秋田県仙北郡強首村寺館尻引字寺館尻引七十九番地在八幡神社宮司鈴木寿秋から同人の保管にかかる同神社境内に生立する同神社所有の杉立木合計十六本を代金二十万円で買受ける契約をし、その引渡を受け、右杉立木の内五本を伐採したところ、右売買は寿秋において神社総代の同意を得ず無権限になした無効なものであつたため、同総代の公にするところとなり、ついで同年八月四日右残立木十一本及び同所に在つた伐倒杉丸太五本は被疑者鈴木寿秋に対する業務上横領被疑事件の証拠物として大曲地区警察署司法警察員高橋憲二により被告人から領置されたのであつたが、一方同神社(代表者鈴木寿秋)は秋田地方裁判所に対し、前記売買契約の無効を理由にして買受人たる前記合名会社刈和野製作所(代表者被告人)を被申請人として、仮処分を申請し、同年八月十二日、左記の如き内容の同庁昭和二十八年(ヨ)第六十三号仮処分決定を得、同庁執行吏林茂夫に対しその執行を委任した。

一、被申請人(合名会社刈和野製作所)は仙北郡強首村寺館尻引字寺館尻引七十九番地一神社境内二百八十坪八合四勺の地上に生立している杉立木の伐採並びに右地上に存する杉伐倒木の造材搬出等一切の処分行為をしてはならない。

二、被申請人の右物件に対する占有を解き申請人(前記八幡神社)の委任する執行吏に保管させる。

三、執行吏は右一、二項の趣旨を公示するため適当な処置をしなければならない。

同執行吏は右仮処分決定に基ずき翌十三日現地に臨み前記領置処分のある事実を知らず領置にかかる杉立木十一本を含む同神社境内に生立する杉立木及び同所に在つた杉丸太が、同仮処分決定の被申請人たる前記会社(代表者被告人)の占有に在るものと認めて、右杉立木及び杉丸太に対する被申請人会社の占有を解き同執行吏の占有に移した上、申請人代理人の承諾を得て田口専右衛門に対しその保管を託し右仮処分決定の趣旨を公示した公示札を掲示したところ被告人はこれを知りながら司法警察職員から仮還付を受けたとして原判示十月下旬頃加沢多吉郎と共謀の上、右執行吏が右仮処分の執行として占有し、同神社の所有する前記伐採残りの杉立木十一本を不法に自己に領得する意思で伐採取得したというのである。

しかして、右の如く、すでに領置処分中の杉立木十一本が被申請人会社の占有に在るものと誤信し、これに対する被申請人会社の占有を解き執行吏の占有に移した右仮処分の執行は領置処分による該立木に対する占有を排除したうえ執行吏のこれに対する占有を設定したものであつて、前記理由により執行法上不適法で無効といわなければならないけれど、執行吏林茂夫が前記仮処分決定に基いてなしたものであること右認定のとおりである以上、前記理由によりなお仮処分の執行としての執行吏の占有取得ということができ、これを公示するため施した公示札は刑法第九十六条に規定する差押の標示ということができるのであるから、差押にかかる右立木十一本を不法領得の意思で伐採取得した行為は差押の標示を無効ならしめた行為といい得ると共に執行吏の占有を侵した窃取行為ということができるので、原判決が原判示事実に刑法第九十六条、同法第二百三十五条を適用したのは正当であり、原判決には所論の如き法令の適用を誤つた違法は存しない。

ただ、原判決が単に第三者の占有中に在る目的物件を執行吏において被申請人の占有に在るものと認めて該物件を自己の占有に移した場合の如く本件仮処分の執行を解し、取消されない限り右執行は有効であると説いているのは誤りであるが、原判決は結局原判示事実に対し前記各法条を適用しているのであるから、理由は異なるが、正当といわねばならない。論旨は理由がない。

(裁判長裁判官 中兼謙吉 裁判官 岡本二郎 裁判官 兼築義春)

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